sss04
12月31日。
時刻は夜中の12時前。
俺は、本国を離れてニューヨークにいた。
何故って、いつもアポなしでやってくる男が、英国の30日にやってきて、仕事を終えたばかりの俺を掻っ攫っていったからだ。
あぁ、文字通りにな。
おかげで年末の予定が大きく狂ってしまった。
……誰だよ。
どうせ予定なんてないだろう、なんていった奴は。
…………まぁいい。
とりあえず、そんなわけで俺は今ニューヨークにいて、
アルフレッドと一緒にカウントダウンのために集まったアメリカ国民らの群集の中にいた。
「ほら、もうすぐ秒読みが始まるぞ!」
アルは隣で目をキラキラさせながら、ステージの上の電光掲示板を見つめていた。
デジタル時計の表示はどんどんゼロに近づいている。
「カウントダウンは10からだからね。君も一緒に数えるんだぞ!」
ムリヤリ連れてきたくせに俺のほうを見ようともしない。
悔しいから返事をせずにいたのだが、群衆の歓声にかき消されたと思ったのだろう、
「いいね」と一度、念を押しただけで後は何も言ってこなかった。
あぁ、本当に面白くない。
寒いし、凄い人ごみで目がまわりそうだし、早く帰りたい。
そんなことを思っている間に、デジタル時計が、今年が残り1分であることを示した。
歓声が、さらに大きくなる。
「さぁ皆さん、カウントダウンを始めましょう! 10、9……」
群集が、声を揃えて数字を叫んでいく。
アルも拳を振り上げながら叫んでいるから、俺も一応、ぼそぼそと数字を口にしておく。
残り5秒……。
「アーサー……」
「4。……何だ――」
数字を叫ぶ声が、2つ、消えた。
俺と、アルと。
だって、仕方ないじゃないか。
唇をふさがれたら、声は出せないんだ。
アルだって、唇をふさいだら喋れない。
頭のどこかでちょっとだけ冷静になって、でもカウントダウンのために集まった人ごみの中でキスなんかしている状況にパニックになって……。
叫ばずにすんでいるのは、ずっとアルが離してくれないからだ。
そして――
「A Happy New Year!」
そのまま、年が、変わった。
あちこちで新年を祝う人々が抱き合ったりキスしたりし始めた頃、ようやくアルは俺を解放した。
冷たいニューヨークの空気の中、俺の頬だけが異常に熱い。
「ななな、何しやがるんだよ!見られたらどーすんだよ!」
「みんなカウントダウンに夢中で気付かないよ」
その元凶である男は、俺の文句も何処吹く風、だ。
それどころか、
「だって、今年の年越しは君とキスしたままでって決めてたんだぞ」
「しらねぇよ、勝手に決めんな!つか、だったら街まで出てこなくてもよかっただろ?!」
「カウントダウンイベントにも行きたかったんだよ」
「おまえなぁ!」
まったくひどいワガママだ。
しかも散々やりたい放題しておいて、また俺から目をそらしているなんて――
「ふざけんなよ!」
だから俺は奴の胸倉を掴み、ぐい、と引きおろす。
一瞬目を丸くしたものの、すぐに余裕を取り戻して不適な笑みを浮かべたアルフレッドを至近距離で睨み、
「年越しのキスならもっとムード考えてしやがれ、ばーか」
言い捨て、ちゅ、と軽く唇を触れ合わせる。
そしてすぐさま、突き放すようにして手を離した。
人ごみの中でたたらを踏んだアルフレッドは、すぐにはされたことを理解できなかったらしい。
人差し指で自分の唇をなぞって、俺を見て、それでようやく理解したようだ。
面白いくらいに顔が赤くなっていく。
はン、ざまーみやがれ。
「アル、寒いから帰るぞ」
きびすを返して人の間を縫うようにして進み始めれば、背中のほうから「待ってくれよ……!」なんて情けない声が追いかけてくる。
いい気味だ。
まぁ、ただ……。
「…………」
俺は、やや乱暴にマフラーを引き上げ、顔を半分隠すようにする。
熱い息が、マフラーに吸い込まれた。
まぁ、いい気味なんだが、作戦は半分失敗だったように思う。
だって、俺の頬の熱も、なかなか引かないのだから――。
<END>
※加筆修正あり
<あとがき>
そしてこのあと、追いついたアルがアーサーを後ろから抱きしめて、新年初デレ(ぇ)
Diary(10.01.03)の再録でした。