sss03
※学パロ(学ヘタってわけじゃないですが)なので名前表記です。
――でな、そんときアイツが……
「おー」
携帯電話の向こう側に適当に相槌を打ちながらロヴィーノがちらりと時計に目をやると、もう日付が変わろうかという時間だった。
――あ。もうすぐ今年も終わりやなぁ。
「そうだな」
アントーニョも同じことに気付いたらしく、のんびりと声をあげた。
新しい年を迎えて一番にアントーニョに会いたいなぁ、なんて女々しいことを考えてしまったから、一人頬を熱くする。
そんなの、学生である自分達には難しいことだってわかりきっているのにな。
けれど、こうやって電話で声が聞けるのだからずいぶんとマシなのだろう。
――せや。年明けたら回線が込むやろ?やから、その前に切るな。
「え……?」
自分で自分を慰めた矢先、アントーニョがあっさりとそう告げるから、思い切り間抜けな声をあげてしまった。
はっとして、手で口を覆うが、相手は気にしなかったようだ。
そのまま続ける。
――やーかーらー。皆、0時になったとたんに電話やらメールやらするやろ?
そのせいで回線込むのわかりきってるし、その前に切ってまうっていうてんの。
「あ。あぁ……そうだな……」
思った以上に落ち込んだ声が出てしまい、あわてて声を張り上げた。
「声が聞き取りにくいのも嫌だしな!」
遠く、チャイムの音がした。
まったく、こんな時間に誰だよ。
俺は気分最悪だって言うのに。
――やっぱりロヴィもそう思う?やっぱりちゃんと話できへんのは嫌やもんなぁ。
俺は気分がどん底まで落ちているっていうのに、アントーニョは携帯の向こうでけらけらと笑っている。
そして、また聞えるチャイムの音。
ったく、フェリシアーノは何処に……あぁ、友達ん所に泊まりに行ったんだ。
ちくしょう、俺、一人じゃねぇか。
もう一度見た時計は、日付が変わるまで、そして年が変わるまであと5分くらいのところをさしている。
「じゃあ、そろそろ切るか?」
なんだか自分が惨めになってきて、携帯を耳から離そうとしたのだけれど、
――あぁ!ちょ、待って!
んだよ、もう!
いらいらするけれど、ちょっとだけ嬉しくもある、複雑な心情。
そんな気持ちで、離しかけた機械をもう一度耳に当てる。
電話の向こうで、アントーニョが鼻をすする音をさせた。
そして、まだ玄関で粘っているらしい来客が、とうとう直接ドアを叩き始めた。
――もう、ほんまは驚かせたかったんやけどな。しゃーないわ。
「は?」
引き止めたくせにぐずぐずとしている電話の相手にまたいらいらしながら時計を見る。
あと、3分……。
――なぁ、ロヴィーノ。
やっと決心がついたらしいアントーニョが、改まった口調で俺を呼んだ。
何だよ、と不機嫌な声で問えば、少し間をおいて、あいつは口を開いた。
――ロヴィ、えぇ加減いれてや?
ダメ押しのように、チャイムが鳴った。
そして、俺もようやく気付く。
大慌てで立ち上がって、転げるように玄関へ向かって、急いでドアを開ければそこには――
「新年おめでとう、ロヴィーノ」
いつの間にか日付も年も変わっていて、欲しい声が、欲しい姿が、機械越しじゃなくてそこにあった。
新年早々、視界がぼやけたのはちょっと悔しかったけれど、この際どうでもいい。
「おめでとう、アントーニョ……」
<END>
※加筆修正あり
<あとがき>
国だと「実は玄関で電話してました★」なシチュエーションが難しそうだったので、
学パロにしちゃいましたー。
Diary(10.01.01)の再録でした。