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散歩の途中、メガネ屋から出てくるギリシャさんとバッタリお会いしました。
彼は私を見つけると嬉しそうに駆け寄ってきました。
「こんにちは」
「こんにちは」
「メガネをおつくりになるんですか?」
尋ねると、ものすごく複雑な表情になってしまいました。
私、何か悪いことを言ってしまったでしょうか……。
「視力が落ちたみたいだから、メガネ作りたかったんだけど……」
「けど?」
「測ってみたら、普通だった……」
「はい?」
そんなことってあるのでしょうか。
まぁ、状況によって視力というものは変わってきますが、メガネを必要とするほどまで落ちた視力が、そう簡単に回復するとは思えませんねぇ。
「家じゃ……本も読めないくらいだった…のに……」
「えぇと。ちなみに、今はどうなんです?」
ごそごそと鞄から文庫本と思われるものを取り出したギリシャさんは、適当に開いたページを見て、「あ」と声をあげました。
「ちゃんと、読める……」
普段のんびりしている彼ですが、さすがに信じられなかったようで、ゆるゆると首を横に振り、
「でも……家じゃ、読めなかった……」
頑なに言い張ります。
一体、どういうことでしょう?
首をひねっていると、ギリシャさんに腕を掴まれました。
「もう一度……確かめたい……」
「え。わ、私もですか?」
あぁ、私の意見は聞かないんですね……。
そのまま、あれよあれよという間にギリシャさんの家に連れて行かれてしまいました。
彼は私を家にあげると、パチンと電気をつけ、再び文庫本を開きます。
「! ……やっぱり、家じゃ見えない……」
いや、そんな誇らしげに言われても……。
というか、それは目が悪くなったのではなく――
「あ、あの、ギリシャさん」
「?」
「大変言いにくいのですが」
「何……?」
「部屋の電球が切れかかっていますよ。だから、部屋が暗くて、見づらいのではないでしょうか?」
「電球……?」
「はい」
「あ、本当だ……じゃあ、俺の目が悪くなったんじゃ――」
「ありませんね、きっと」
「そうか……。よかった……」
あの、ギリシャさん。
気付かなかったんですか?
……とは、さすがに言えませんでしたので、代わりにこういいました。
「メガネではなく、電球を買いに行きましょう」
<END>
<あとがき>
半分実話です。私の……。
いやぁ、何か部屋が暗いなぁ。 つか、外より暗くね?と思っていたら、
電球の寿命間近でした★
気づけよって話ですよねぇ。
このギリシャさんみたいにわざわざ視力検査にはいきませんでしたけどね!