アユムさんのイラスト「君の名前は?」から(勝手に)派生させたものです。
お前が呼ぶなら
「おい、アントーニョ。アントーニョ・エルナンデス・カリエド!」
教室に入るなり大声で叫んだのは金髪とやたら主張の激しい眉を持つ青年だった。
彼は成績優秀な生徒会長であるため、この学園で知らぬものはいない。
それどころか、アーサー・カークランドと言えば他校の生徒でも知っているほどである。
(口が悪いのは元ヤンだからという噂もあるが、それは定かではない)
そんな彼を、アントーニョは堂々と無視していた。
目の前のロヴィーノと話しこんで聞こえないふりを決め込んでいるが、
ロヴィーノのほうがちらちらと気遣わしげにアーサーを見ていることから、アントーニョにだけ聞こえていないということはない。
イラッとしたアーサーはつかつかとアントーニョに近寄り、がしりと彼の肩を強くつかんだ。
「なんや、痛いなぁ」
ようやく振り返ったアントーニョは実に不機嫌そうな顔をしていた。
「俺を無視するだなんていい度胸じゃねぇか」
「アホか。お前が“エルナンデス”とか言うからや。けったくそ悪い」
「は?」
間抜けな声をあげたのはロヴィーノだ。
しかしアントーニョは珍しくロヴィーノを無視し、アーサーを睨みつける。
「俺の名前はヘルナンデスやって言うたやろ」
アーサーは苦虫をかみつぶしたような顔をしていたが、無理やり笑顔を作ると、
「あぁ、そうだったな、アントーニョ・ヘルナンデス・カリエド」
「で。何なん?いきなり教室に殴りこみに来て」
「殴りこみじゃねぇよ。つか、お前が部費に関する書類をださねぇのが悪いんじゃねぇか」
「あぁ、あれな」と呟いたアントーニョは鞄の中から端が折れてしまっている紙切れを取り出すと、
ほれ、とアーサーの顔も見ずにそれを突き出す。
「……確かに受け取った」
アーサーもそれをむしり取るように受け取ると、さっさと踵を返して教室から出て行ってしまった。
「なぁ、アントーニョ」
ぐい、とロヴィーノが彼の袖を引っ張ると、先ほどとは真反対のへにゃっとした笑みを浮かべて「なんや?」と首をかしげた。
「お前って、アントーニョ・エルナンデス・カリエド……だよな?」
確認するように、ゆっくりと発音する。
表記の上では“Hern`andez”となるのだが、彼の母国の言葉ではHは発音されないため“エルナンデス”となるはずだ。
それを指摘すると、アントーニョは「あー」と間延びした声をあげ、跳ね気味の黒髪をくしゃっとまぜた。
「そうなんやけど、よく間違われるし、訂正するのも面倒やから大抵ほっとくんや。
で、ホントに親しくなった人には正しい読み方を教えることにしてるんやけど、
そのせいか、親しくない奴に“エルナンデス”って呼ばれるとなーんか気持ち悪ぅてなぁ」
親しくないっつーか、アーサーは俺の天敵やから、と怖い顔で呟いてから、太陽のような笑みをロヴィーノに向ける。
「お前にはちゃんとした呼び方教えたやろ?やから、エルナンデスでえぇんや。ていうか、別に名前で呼んでくれたらそれでえぇし」
「まぁ、そうだな」
うまくごまかされた感じがしないでもないが、ロヴィーノは素直にうなずくしかなかった。
その後も、いくら注意されてもアーサーが「エルナンデス」と呼んでしまうのはまた別の話。
<END>
<あとがき>
親分がツンデレになったんですけど……。
そしてなんつーか、英→西ロマっぽい。いや、そんなつもりないんですけど!
ちなみにアーサーが「エルナンデス」って呼ぶのは、
「たとえ大っ嫌いな相手でも名前だけはちゃんと呼ばなくちゃならない」っていう
変な紳士魂のせいっていう裏設定です。