子分からのチョコレート
「いらっしゃいませ~。あ、アントーニョ兄ちゃんだ」
カフェへの来店を告げるベルに振り返ったフェリシアーノは、客が身内だとわかると、ふわりと微笑んだ。
「今日のランチは何?」
席に着きながら、アントーニョはフェリシアーノおすすめの「本日のパスタランチ」を注文した。
今日は少し客が多いな、と何となく店内を見回していると、特に女性客が多いことに気づく。
その理由は、すぐにわかった。
「あの、フェリシアーノさん。よかったら、お兄さんと食べてください」
「ありがとう。このお店、雑誌でも紹介されてた有名店だよね。わざわざ嬉しいな」
今日は2月14日。
国によって少し習慣の違うイベントだが、ここでは、女性から男性へ、チョコレートを贈るのが一般的だ。
多くの女性客は、ヴァルガス兄弟にチョコレートを渡しに来ていたらしい。
二人ともモテるもんなぁ、と客とフェリシアーノのやりとりを眺めていると、ロヴィーノが厨房から出てきた。
「じゃあ、俺たちからも、ハッピーバレンタイン!」
彼女たちのテーブルにチョコレートのクッキーが置かれた。
本日限りのサービスだぜ、と告げるロヴィーノに、客は頬を染めながらお礼を言っている。
二言三言交わすと、二人はそれぞれ仕事に戻っていった。
それと同じような光景は、あちこちのテーブルで展開されていった。
「おまちどうさま。今日はポモドーロです」
「なぁフェリちゃん、去年はこんなサービスしてなかったやんなぁ」
あぁ、とフェリシアーノはのんびりと今年のイベントが始まった経緯を話し始める。
「それはね、俺たちがバレンタインの贈り物を拒まずに受け取っていたら、だんだん持ってきてくれるお客様が増えちゃって。
個別にお返しをするのも大変になっちゃったから、
今年はお店からのサービスってことで、プチガトーをつけることにしたんだ」
「へぇ、そうなん」
パスタを頬張りながらアントーニョがうなずいていると、
「だから、これはお前のためじゃねぇぞ」
ロヴィーノがやってきて、テーブルには、他のお客さんと同じプチガトーが置かれた。
彼が言うように、他の客のところにサーブされたのと全く同じ、チョコレートクッキーだった。
「身内やねんから、もう少しサービスしてくれてもえぇんちゃう?」
「身内贔屓はしねぇんだよ」
笑いながら告げた冗談は、ばっさり切り捨てられる。
「容赦ないね、兄ちゃん」
苦笑いしたフェリシアーノは、他の客に呼ばれて席を離れていく。
なんとなく仕事に戻るタイミングを逃したらしいロヴィーノを、アントーニョはちょいちょい、と手招きした。
ハテナマークを浮かべながらも素直に近づいてくる子分に、アントーニョは笑みを深くしながら告げる。
「ロヴィからのは?」
「は?そんなのーー」
「ないん??親分悲しいわぁ。ベルや、職場の女の子は俺にくれたのに。ロヴィからのだけないんか……」
大げさなほど落ち込み、ため息をつくと、ロヴィーノが少しうろたえる。
いじけたようにチョコレートクッキーを人差し指でつついていると、耐えきれなくなったのか、ロヴィーノが唸った。
「っ、あぁもう!!遅くなってもいいなら持っていってやるっ!」
「ありがとう、ロヴィ!楽しみにしとるなっ!」
ころっと態度を変えて笑うアントーニョに、しまったと思ってももう遅い。
「あー……簡単なものしか作れねぇからな」
少し離れた場所で、フェリシアーノが「兄ちゃん、ちょろいねーー」と可愛そうな視線を投げてきたのは気づかないフリをした。
〜昼休み明け〜
「アントーニョさん、ご機嫌ですね。何かあったんですか?」
「チョコを貰う約束してん」
「今度こそ彼女ですか?」
「ちゃうよ。幼馴染み」
「また?!え、可愛いですか、その幼馴染みも」
「うん、可愛ぇよ!」
「!!!(言葉にならならない悔しさ)」
「?」
<END>
<あとがき>
相方さんとのコラボで、どの時間の親分を切り取るかは取り合いでしたw
マカロニ兄弟のお店は事あるごとにいろんなサービスいっぱいだと思います。
そして、ちょい確信犯な親分(!)でした。